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山口県の淡水魚類の概要

 山口県は本州の西端に位置し、北は朝鮮半島、南は九州および四国に隣接し、周辺は北に日本海、西に響灘、南は瀬戸内海に面している。氷河期には海面低下により、これら周辺地域との海峡は陸橋になったと考えられ、淡水魚類の分布上非常に興味深い地域である。山口県の淡水魚類に関する論文・報文については、古くは田中茂穂博士(1931)に始まり、多くの報告があるが、現在までに片山・藤岡(1971)、藤岡・片山(1977)および藤岡(1991)によって、その分布概要がほぼ明らかにされている。その後確認された種も含めると山口県に分布する淡水魚類(河口に侵入する海産魚を含む)は現在まで41科 125種が確認されている。これを生活型で見ると純淡水魚が57種、回遊魚が18種、河口に侵入する汽水性海産魚が9種で、この内県外から移殖、移入されたものが23種ある。因みに県外から入り込んだ魚類について増・養殖を目的として持ち込まれた「移殖種」と、移殖(稚アユ)に混ざり侵入したものや、ルアーフィッシングを目的に持ち込まれた「移入種」として整理すると、以下のようになる。
移殖種(カッコ内は山口県への移殖年)
ゲンゴロウブナ(1949)、ハクレン・コクレン(1965頃)、ワタカ(1950)、ソウギョ(1978頃)、ホンモロコ(1953)、ワカサギ(1970代前半)、ニジマス(1965頃)、ペヘレイ(1985)、カダヤシ(1975)、ブルーギル(1980)。この内ソウギョ、ハクレン、コクレン、ニジマス、ペヘレイを除く各魚類は繁殖し、分布を次第に拡大している。
移入種(括弧内は山口県への移入年)
カネヒラ(1993)、イチモンジタナゴ(1974)、タイリクバラタナゴ(1985)、ハス(1994)、ビワヒガイ(1951)、ニゴイ(1970)、デメモロコ(1994)、スゴモロコ(1994)、オオクチバス(1980年前半)、タイワンドジョウ(1957)、カムルチー(1990)。この内カネヒラ、タイリクバラタナゴ、ハス、ニゴイ、デメモロコおよびオオクチバスは繁殖しているが、その他の魚類はあまり繁殖していないようである。
 これら移殖・移入魚を除外して山口県の淡水魚を科別に見ると、ハゼ科が最も多く23種、ついでコイ科14種、ドジョウ科5種、サケ科4種の順になる。
 ところで青柳(1957)は日本列島への淡水魚類の侵入経路として、
1 アジア大陸から朝鮮半島を経由して侵入した支那系淡水魚類
2 アジア大陸南部から島嶼を経て沖縄、九州に侵入した印度支那系淡水魚類
3 シベリア大陸南部から樺太、北海道を経て本州に侵入したシベリア系淡水魚類
4 千島列島を経て北海道、本州に侵入した北太平洋系淡水魚類
以上の4系列があることを提唱している。この侵入経路を前提としてこれら山口県の淡水魚類を見ると、隣接する地域の魚類に高い類似性が見られ、この内支那系淡水魚類(コイ科・オヤニラミ等)が28%、印度支那系(ウナギ・ボラ等)18%、シベリア系(スナヤツメ・ウグイ等)・北太平洋系(サケ・マス等)が共に7%であり、日本周辺分布種(アユ・ミミズハゼ等)が41%となる(この%値は河口に侵入する海産魚類その他が存在するため100%にはならない)。
 これらの内、山口県産淡水魚類の分布パターンの中で北太平洋系のヤマメ(サクラマス)およびアマゴ(サツキマス)と支那系のシマドジョウ類の分布は特筆すべきである。本来、ヤマメは日本海側の河川の上流に分布し、アマゴは瀬戸内海側の河川の上流に分布しており、分布域は明確に異なっていた。しかし河川放流が義務付けられヤマメ・アマゴの放流が盛んとなり、無分別な放流が行われたため、ヤマメとアマゴが混棲するところが県内に2水系ある。その1つは阿武川水系の佐々連川で、これは1942年頃元内海水産試験場長の前川兼祐氏(故人)により錦川からアマゴが持ち込まれ、これが分布を拡大し隣接支流の佐々並川でも見られる。他の1つは椹野川水系の荒谷川で、ここは1982年に椹野川漁協により、ヤマメが放流され両水系とも交配種が生じている。
 ヤマメ降海型のサクラマスはヤマメの分布する河川に遡上が認められる。一方アマゴ降海型のサツキマスは錦川には毎年遡上する。また佐波川では1937年に遡上の記録があり、その後暫く遡上が見られなかったが、1996年に支流の三谷川(巣垣)で2尾確認し、同年佐波川本流の小古祖(三谷川合流点から1.5km下流)で漁協組合員が確認している。
 河川にダムができるとダムから下流の水生生物は大きな被害を受けるが、ダムより上流では別の結果をもたらしたところがある。それは椹野川水系の荒谷川ダムと佐波川水系の島地川ダムで、ここには降湖型のアマゴ(サツキマス)が生息する。荒谷川、島地川の上流は共にアマゴの自然分布が見られ、このアマゴがダム湖を海がわりに成長し、荒谷川では全長60cm前後、島地川では45cm前後の降湖型アマゴ(サツキマス)の産卵行動が10月上旬に見られる。
 山口県におけるドジョウ科魚類の分布は5種類を数える。そのうちシマドジョウ属の分布は、シマドジョウが田布施川以東に分布し、その西隣りの島田川本流にはスジシマドジョウ、その支流の東川にはヤマトシマドジョウが生息している。日本海側には阿武川以東にシマドジョウ、以西にヤマトシマドジョウが分布する。以上のように山口県におけるシマドジョウ類の分布パターンは他県に見られないほど複雑な様相を呈し、極めて興味深い。また、シマドジョウ、ヤマトシマドジョウの生息水系にイシドジョウが見られることも興味深い事実である。
 山口県産淡水魚類には何らかの手を加えないと、減少や絶滅するグループがあると同時に、あまり増減を生じないグループもある。この現象は次に述べるような原因があってのことである。
 錦川の最上流域にゴギの天然分布が見られるが、最近極度に減少した。この主たる原因は森林の伐採によるもので、甚だしいところでは河畔林が取り除かれ河川が露出しているところもみられる。この様な状態では河川周辺の保水力は無くなり、降雨は一挙に下流に流され、河川水温は上昇し、少ない栄養塩類も短時間で流失してしまう。このようなマイナス要因を取り除くために、地域の人がボランティア活動で『中国地域作り交流会、にしき川部会』や『どんぐり十字軍』などの会を結成し、クヌギやナラなどの広葉樹数千本の植林を実施しているところ(錦川水系、椹野川水系など)がある。
 主として上流域に生息するアカザ、カジカも減少傾向にある。減少の要因は生息の場を失ったことである。上流にはダムが建設されたり、河川改修(三面張り)がなされ、河川流量は少なくなり、流れはほぼ一定化し、アカザ、カジカの生息場である石の下は砂で埋もれ、すむ所も産卵する所も減少してきたのが現状である。
 メダカ、ドジョウも激減した。理由は、水田には各種農薬が散布(マツクイムシ防除薬を含む)され、灌漑用水路はコンクリートのU字溝に替えられ、休耕田は増加し、生息場所が減少していることである。一方、オオクチバスは破竹の勢いで増え分布を拡大している。オオクチバスは山口県に1980年代前半に北九州から丸山ダム(厚東川水系)に持ち込まれ、1990年代に急速な分布拡大を見せた。この魚の食性は動物性で周りの魚を食い尽くすほどの魚類である。こうした魚類が増加すると県内の淡水魚類相に大きな変化が生じる可能性がある。現在コクチバスも隣の島根県や九州に分布を拡大しており、山口県に持ち込まれるのも時間の問題であろうと危惧している。このような魚類の持ち込みについては十分な検討を加え慎重を期さねばならない。
 山口県の『絶滅のおそれのある野生生物(淡水魚)』については、水系によっては絶滅したものもあるが、今回は全県的な立場から魚種を選定した。なお、ここに掲げた魚種は、あくまでも山口県として減少を危惧されるものであり、必ずしも全国的にそうであるものとは限らない。またサクラマスおよびサツキマスについては、河川型であるヤマメおよびアマゴとして判断すれば本来リストに含めるべきではないかも知れないが、近年は降海型の資源の減少が著しいためここに加えた。
 また、山口県においては、もともと在来の淡水魚の種数が九州や近畿地方に比べて少なく、大きく減少傾向にあるものと普通種に大まかに分けることが可能であるため、準絶滅危惧種のカテゴリーはあえて設定しなかった。ここで情報不足に含めた種については、少ないながら在来的に生息するものである可能性もあるが、残念ながら確認例が少なく、このカテゴリーに含めざるを得なかった。
 
(藤岡 豊/遺稿)

(凡 例)
 
執筆担当
掲載種の選定・執筆等については、以下のとおり担当した。
 
藤岡 豊(元山口大学理学部教授) − 2000年11月逝去−
調査・選定及び種の解説の総括(平成9年度〜平成12年11月分科会会長)
(以下は五十音順)
安部 豊(山口県立水産高等学校)
カマキリ、カジカ、イドミミズハゼ、シラウオ、イトヨ
河口郁史(山口県教育研修所指導主事)
カワヤツメ、スナヤツメ、サケ、サクラマス、サツキマス
酒井治己(水産大学校生物生産学科助教授)
選定・種の解説の総括 (平成13年1月〜分科会長)
アカザ、モツゴ、メダカ、ドジョウ、カワムツA、ヨシノボリ

谷口義則(山口県立大学生活科学部講師)

移入種及び淡水域の保全対策
吉村高男(山口県立熊毛南高等学校上関分校)
イシドジョウ、ゴギ

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