レッドデータブックやまぐち
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山口県のほ乳類の概要

 ほ乳類は脊椎動物の一員で、体が毛でおおわれ、恒温性動物で、母乳で子を育てる仲間である。空中・陸上・地中・海中と生活空間は多岐にわたり、大きさ、形態、行動および生活史は多様であり変化に富んでいる。
 山口県内に生息すると考えられるほ乳類の基準は下記の通りとした。
(1) 陸域のほ乳類のみとし、純海産のものは除いた。
(2) 原則として、外来種や飼育種であっても、現在、野生状態で安定的に生息している種については、県内に生息するほ乳類とみなした。
 山口県は本州の西端に位置し、三方を海に囲まれ、温暖な気候である。自然林としては、山口県の最高峰1,337mの寂地山を中心とする西中国山地にブナ・ミズナラを中心とする夏緑樹林が標高750m以上の所に残存し、標高750mから500mの地域でシデ・イヌブナ・クリ・ナラなどの落葉広葉樹のみられる移行帯、標高500m以下の地域では常緑性のシイ・カシなどを中心とする照葉樹林が広がっている。しかし、これらの自然林はわずかに残るだけで、スギ、ヒノキの人工林やアカマツ林などの人手の加わった森林となっている。
 ほ乳類は生息環境と密接して生活している。生息環境から山口県のほ乳類相を考えると、夏緑樹林帯から移行帯を中心に生息するニホンリスやニホンツキノワグマやホンドモモンガなど、県内に広く見られる照葉樹林に生息するワカヤマムササビやニホンイノシシ、秋吉台の石灰洞や山陰海岸の海触洞に生息するニホンユビナガコウモリやホンドノレンコウモリなど、都市に生息するアブラコウモリやドブネズミなど多彩である(庫本・田中, 1995)。
 山口県内に生息していると考えられる7目17科44種のほ乳類を、環境省のレッドデータブックカテゴリーに基づき、絶滅危惧IA類2種、絶滅危惧IB類1種、絶滅危惧II類3種、準絶滅危惧種12種、情報不足4種、絶滅の恐れのある地域個体群1種の計23種を選定した。
 絶滅危惧IA類に選定されたニホンツキノワグマは西中国山地個体群が環境省により絶滅の恐れのある地域個体群に指定されている。九州・四国では絶滅が心配されている。奥山のスギ・ヒノキ造林はニホンツキノワグマから生息地を奪い、中国縦貫道などの道路網の整備は生息地の分断に拍車をかけ、人里への進出を余儀なくされている。近年、農林作物への食害や、人との遭遇が増え、有害鳥獣として捕獲が増えている。広い行動圏(1個体30〜100平方キロメートル以上)と豊かな広葉樹の森がないと生きていけないニホンツキノワグマにとっては危機的状況である。
 同じく絶滅危惧IA類に選定されたニホンリスは環境省により絶滅の恐れのある地域個体群に指定されているが、ここ20年間目撃情報、捕獲情報がなくもっとも山口県下で絶滅が懸念されるほ乳類である。
 絶滅危惧IB類に選定されたヤマネは環境省により準絶滅危惧種に指定され、国の特別天然記念物種である。近年、捕獲情報が増え、県内各地での生息が確認されつつある。
 絶滅危惧II類に選定された3種の内2種のホンドノレンコウモリ、ヒナコウモリは翼手(コウモリ)目である。コウモリ類は県内で9種生息が確認されているが、準絶滅危惧種の4種モモジロコウモリ、ニホンテングコウモリ、ニホンユビナガコウモリ、オヒキコウモリを含め、6種が選定された。選定された6種の内、ホンドノレンコウモリは環境省の絶滅危惧IB類種、ヒナコウモリ、ニホンテングコウモリは絶滅危惧II類種、オヒキコウモリは準絶滅危惧種に指定されている。
 コウモリ類は空中を飛ぶことのできる唯一のほ乳類で、昼間は洞窟や樹洞などのねぐらで休眠し、夜間エコロケーションを駆使して飛翔し、昆虫類を捕獲して食べる。多様な昆虫類の発生する豊かな広い森林などの生息環境が必要である。原則として年1回、1子の出産であり、餌である昆虫類のいなくなる冬季は冬眠する。繁殖率は低く、群れで生活するため、種を維持するためには一定の個体数が必要であり、個体数の減少は絶滅の危機を招く。コウモリ類は県内でもっとも調査研究なされているほ乳類である。秋吉台の洞窟群に生息する種を中心に30年以上に及ぶ継続研究がなされており、詳細な生態が明らかにされている。
 絶滅危惧II類種に選定されたニホンモモンガはこれまで数例の捕獲、目撃情報しかないが夏緑樹林を中心に生息していると考えられ、調査研究が必要である。
 準絶滅危惧種に選定されたサイゴクジネズミとコモグラ、情報不足種に選定されたニホンカワネズミとミズラモグラは、食虫(モグラ)目である。ニホンカワネズミは水産庁により希少種として選定され、ミズラモグラは環境省の準絶滅危惧種に指定されている。食虫類はニホンカワネズミを除き、地表から地中の小動物を食べ、目の機能は低下し、発達した鼻先の触覚器官や口ひげの触覚を使い採食している。ニホンカワネズミは渓流部に生息し、水生昆虫、カエル、淡水魚などを食べる。体重はジネズミ10g前後、最大のコウベモグラが150g前後と小型である。繁殖、食性、行動などの断片的な情報はあるが、地中に生活するため十分に生態は解明されていない。
 準絶滅危惧種に選定されたホンドスミスネズミ、ホンドカヤネズミ、情報不足種に選定されたハタネズミは齧歯(ネズミ)目である。齧歯目には先にあげたヤマネ科のヤマネやリス科のニホンリス、ホンドモモンガ、ワカヤマムササビなどが含まれる。齧歯目は尾が長く、門歯が発達し、草食から雑食まで多様である。ネズミ類の繁殖力は驚異的で、1年に数回繁殖する種もあり、大発生することもある。一般に家ネズミと呼ばれる種はドブネズミとクマネズミとハツカネズミの3種である。
 準絶滅危惧種に選定されたイタチ科のホンドイタチ、ニホンアナグマは食肉(ネコ)目である。食肉目には絶滅危惧IA類のクマ科のニホンツキノワグマ、イヌ科のホンドタヌキ、ホンドキツネ、ネコ科ノネコなどが含まれる。食肉類は鋭い裂肉歯を持ち、多くの種は雑食性である。クマ科、イタチ科は単独で行動し、イヌ科のタヌキ、キツネはペアで行動する。食物連鎖の上位に位置し、生息環境の変化の影響を受けやすい。移入種であるチョウセンイタチは県内広く繁殖し、在来種であるホンドイタチの生活圏を脅かしている。
 準絶滅危惧種に選定されたキュウシュウノウサギ、情報不足種に選定されたトウホクノウサギはウサギ目で、トウホクノウサギは山地の積雪地帯に生息すると考えられ、冬季体毛が白化する。全県に広くみられるキュウシュウノウサギは冬毛と夏毛はほぼ同色である。移入種であるカイウサギが瀬戸内海の島で繁殖している。
 準絶滅危惧種に選定されたホンドザルは霊長目オナガザル科に属し、日本固有種である。雑食性で、群れで行動する。県内に広く分布するが、生息域が分断され、4つのエリアに隔離された状態である。保護獣であるが、県内での農林作物への食害が増大しており、年間65〜144頭のサルが有害鳥獣として捕獲されている。
 絶滅の恐れのある地域個体群種に選定されたホンシュウジカは偶蹄(ウシ)目で、偶蹄目にはニホンイノシシ、移入種のヤギなどのひづめを持つ種が属す。ホンシュウジカは県の北西部を中心に生息し、他県の個体群と分断されている。遺伝的研究や食性など、山口県のシカについての調査研究が行われている。農林作物への食害が増大し、年間900頭前後のシカが有害鳥獣として捕獲されている。ニホンイノシシは県内に広く生息し、旺盛な繁殖力を誇り、農林作物へ多大な被害をもたらし、県内で年間1万頭以上が捕獲されている。ヤギが移入され繁殖している島が瀬戸内海にある。
 これまで県内のほ乳類の分布や生態について、コウモリ類の一部の種やホンシュウジカ以外ほとんど調査研究がなされていなかった。しかし近年、発信機、赤外線カメラ、バットディテクター、GPSなどの調査機器の発達と遺伝子解析などの研究技術の開発により、調査研究に携わる人が増加してきている。、夜行性ほ乳類など研究が困難である種の生態についても明らかになりつつあり、遺伝的解析により 他地域個体群との関係がわかりつつある。生物多様性調査などを通し、様々な機関に情報が蓄積され、県内のほ乳類相が明らかになりつつある。
 先に述べたようにほ乳類は生息環境が重要なベースになっており、急速な生息環境の破壊はほ乳類の生存に大きな打撃を与えている。ほ乳類の生活形態が多種多様であり、長い進化の過程で固有のニッチを獲得し、生態系の中で確固たる地位を占めている。たとえば、ツキノワグマのように広い行動圏と低密度の中で生活する種は、生息地の減少と分断がおこれば、雌雄の出会いの減少と繁殖の減少により、種の維持は困難となる。生態系は多様な生物種の相互作用により成り立っており、種独自の分布、社会構造、繁殖システム、行動圏、資源利用、個体群維持機構、行動などからみた種にあった保護・保全の対策が必要である。
 ほ乳類の農林作物への被害は、他の野生動物に比べ物にならないほど、群を抜き大きい。有益な被害防除の方法は今だに確立されていない。狩猟人口が減少している現状を考えると、有害鳥獣駆除を中心とする防除を続ける事は困難である。種の持つ特性を十分把握する事による、防除技術の確立が急務である。また、スギ、ヒノキの人工造林地は、緑の砂漠といわれ、単一な生息環境をつくりだし、ほ乳類の餌となる木の実や土壌動物などの多種多様な動植物相がみられなくなっている。クリやクヌギなどの落葉広葉樹の植林などほ乳動物の生息環境改善の動きも出て来ている。生息環境の整備と防除技術の確立なくしては、人と野生ほ乳類との共存、共生の道はあり得ない。
 道路網の発達による、生息地の分断などにより、ほ乳類の交通事故が多発している。動物にやさしい道路作りも必要となってきている。また、野生ほ乳類の生息地の開発や、都市化に適応していくタヌキなどにより、ペットとの接触が増え、ジステンパー、疥癬、フィラリアなどの病気が野生ほ乳類に大きな影響を与える可能性があり、予防も大きな課題である。
 今回の対象からは海産のほ乳類は除いているが、水産庁のレッドデータの希少種にあがっているスナメリが、瀬戸内海を中心に生息している。今後は海産性ほ乳類も加え、山口県のほ乳類の全体像をさらに明らかにしたい。
 
(田中 浩)
(凡 例)
 
執筆担当
(種の解説)
庫本 正(秋吉台科学博物館名誉館長) ・ 松村澄子(山口大学理学部助教授)
ホンドノレンコウモリ、ヒナコウモリ、モモジロコウモリ、ニホンユビナガコウモリ、オヒキコウモリ
田中 浩(山口県立山口高等学校)
ニホンリス、ツキノワグマ、ニホンモモンガ、ニホンイタチ、ニホンアナグマ
細井栄嗣(山口大学農学部助教授)
ホンシュウジカ
村田 満(多々良高等学校)
ヤマネ、サイゴクジネズミ、コモグラ、ホンドザル、キュウシュウノウサギ、ホンドスミスネズミ、ホンドカヤネズミ、ニホンカワネズミ、ミズラモグラ、トウホクノウサギ、ハタネズミ

(付 記)
蛭田 密((株)海の中道海洋生態科学館)
スナメリ

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